ざっくりいうと1期はすごく良くて2期はあと一歩かな、という感想でした。
はじめに
まず、本作品は吹奏楽部をテーマにしたものですので、以下のような性質の競技であることに注意を払う必要があります。
① 採点競技である。さらに、採点基準が判断できない。よって、ライバルと直接対決することは少ない。
点を多く取ったほうが勝ちという球技に比べて、採点競技は基準が分かりにくいです。しかも、フィギュアスケートや体操では分かりやすい技術も、私達素人にとっては判別できません。
したがって、物語中では、一生懸命続けた練習や、滝を初めとした先生たちの指導によって、主人公たち(北宇治)のパフォーマンスが絶対的に高いことを担保することになります。逆に、演奏当日の頑張りや土壇場の機転はほとんど役に立ちません。
② 集団競技であるため、チームビルディングが焦点となる。
『ウォーターボーイズ』を想起しました。あとは野球とか。吹奏楽部はそれよりもさらに大人数であるため、メンバーの足並みがそろっていることが重要になります。メンバーの団結が、勝利条件として大きな要素となるわけです。
1期
サンフェスまで
1期の前半は、サンフェスという大会に出場するまでを描きます。北宇治の吹奏楽部は弱小でしたが、チームとしてまとまり無事大会をやり遂げることができます。
高校の部活動ものでは、「弱小チームに新入生と先生が加入→鬼のように強くなる」というのは鉄板の流れです。
上記に上げた部活動ものにおける吹奏楽の注意点も、作中では以下の描写を通じてうまくクリアしていると思います。
- ①に対して:滝のスパルタ指導、生徒たちの自発的な練習
- ②に対して:物語開始~サンフェスの成功経験までの描写
ちなみに僕は、バラバラだったメンバーが心ひとつに……というストーリーが大好きです。1期スタートからサンフェスまでは、そういった意味でドンピシャでした。
実際、ハラハラしませんでしたか?全国大会出場という、一般人の私達からしたらかなりハードルの高い目標を掲げさせられ、生徒たちはそれに従ってかなりの努力を求められる。いつ離反者が出てもおかしくないのでは……?そう思いながら観ていました。
現実問題として、あのようなハードな練習を課された場合、音を上げる生徒はかなりいると思います。人数の多い部活動の場合、毎回練習に出る生徒もいれば、たまにしかいない生徒もいます。特に2年生は、あまりやる気のないメンバーが残っていたという設定になっています。
そのような状況下で、ほとんどの生徒が最後までついていったように描かれているのは多少違和感がありますね。やれば出来る子だった、あるいはいなくなった生徒は元から幽霊部員で大した影響力を持たなかった、みたいに思っておけばよいのでしょうかね。
オーディション
後半では、北宇治は府の大会に向けて練習に励みます。滝は、演奏者を選出するためオーディションを開催します。
レギュラー争いというのは団体競技において避けて通れないプロセスです。メンバーの選出においてオーディション形式を採用する場合、生徒の立場では一発勝負というプレッシャーがかかることになります。実はこれは本番が一発勝負であることを考えるとうまい仕組みなのかなと思います。
しかし、採点競技という性質により、どのようにメンバーを決めるかを描くのはより難しくなります。
今回のオーディションは2つのフェーズがあったように見えます。
- 基準点をクリアできるかを試される
- 限られたポストを巡って争う
上で描かれたのは主に夏紀・久美子で、下はソロパート争いですね。
夏紀は当落線上から落選したという感触を受けます。アニメでは結構淡々と描かれていましたが、だからこそ想像をかきたてられますね。この部分の夏紀掘り下げた薄い本あったら紹介してください。マジで。
ソロパート争いは、麗奈と香織によるものですが、ここは決着までのプロセスがとても綺麗で良かった。なお、このときの優子は一線を踏み越えかける程度の行動をおこしており、危ない人物だという評価をさらに強めることになりました。
久美子の挫折
オーディションに合格し、主人公の久美子は大会曲の練習に励みます。しかし、ユーフォの難しい部分をうまく演奏できず、滝先生に久美子をはずしてあすかのみで演奏するよう指示されてしまいます。
久美子はめちゃめちゃ悔しい気持ちになります。滝先生のうまいフォローもあり、練習への熱は維持されます。
1期はスポ根だ、と友人が言っていましたが、その性質はこのくだりによるものが大きいと思います。僕はスポ根エッセンスは嫌いではないし、とても熱心に練習する久美子たちに惹かれていきました。
久美子は気持ちの面ではすぐに乗り越えましたが、技術的にも2期でこのパートを任せられることになることで乗り越えることに成功します。久美子はとても喜んでいましたし、とてもいいシーンでした。
なお、久美子が技術的に壁にぶつかるのはこのときだけです。
まとめ・その他
1期はチームビルディング、オーディション、主人公の挫折と成長の3つがテンポよく描かれていました。北宇治は府大会を突破して関西大会へ出場したことで幕を閉じます。
人間関係要素についてですが、久美子と麗奈の関わりが多く描かれていました。中3のときに麗奈が久美子に強烈な印象を残したのが理由です。振り返ってみると1期当初の久美子は麗奈にビビりまくりでした。下の名前で呼びあうようになって本当に良かったですね。久美子が「麗奈……」ってよぶときたまにすごくエロい感じを受けるのは僕だけでしょうか。
滝先生はとてもいいキャラしていますね。北宇治の柱であり、生徒が超えるべき壁でもあります。あの知的で清潔感がありつつも、かなりうさんくさいキャラデザ(とCV)はすごくいいです。
2期
2期は前半が関西大会まで、後半が全国大会までです。2期ではスポ根要素は抑えられ、代わりに人間関係を描く場面が増えます。前半は南中出身の2年生、後半はあすかです。
2期はいいところも悪いところもあったなという印象ですので、それぞれ説明します。
2期のいいところ
- 南中出身の2年生たち、特に優子
- 10話の久美子(あすかと麗奈への態度の違い)
- 「お姉ちゃん大好きだよ!」
2期の良くないところ
2年生
希美が部への復帰を希望するものの、みぞれが彼女を苦手としているため、あすかが許可を出さず、その後事件が起きるというストーリーになります。
ここで僕の中で優子への評価が急上昇します。あんなに仲間思いだったとは知らなかったし、脱走したみぞれを見つけた後のやり取りは涙なしでは見られませんでした。1期のときにただの狂信者だと思っていて本当にすまんかった。
10話の久美子(あすかと麗奈への態度の違い)
全国大会が決まって以降、あすかが大学受験や母親との確執を原因に退部寸前に追い込まれます。このまま退部させまいと、様々な生徒が説得にかかります。
10話で久美子は、あすかに最後の説得を試みます。あすかは「境界線引いて踏み込む事は絶対にしな」いで「安全な場所から見守る」だけの久美子を拒絶しますが、あすか先輩のユーフォが好きです、あすか先輩とコンクールに出たいです!という感情丸出し涙ボロボロの訴えにあすかも心動かされます。
自分の本心を見せないあすかがそれを言ってもブーメランにしかならんだろ…と思いましたが、久美子が建前無視で向き合ったのはこのときが最初で最後だったように思えます。とてもいいシーンでした。
ちなみに、ほぼおなじ頃に麗奈には、滝先生に奥さんがいた(5年前に死別)という事実を隠していたことを怒られます。久美子は、「奥さん、いないんだよ…」と言って応援していますが、
いや絶対見込みないでしょ
と思いました。ならばそのようなことを真顔で言っちゃう久美子はなかなか役者だなと思いました。
「お姉ちゃん大好きだよ!」
印象に残っているセリフです。全国大会が終わって帰ろうとする麻美子への久美子の言葉です。
麻美子は久美子にユーフォニアを始めるきっかけを与えた人物であり、久美子が自分の演奏を最も聞かせたい人物であると思います。麻美子は今までの失敗をくやみつつも前を向いて歩き出そうとしていました。
そんな姉に対し、僕は感謝を伝えると思っていましたが、実際は上記のセリフでした。考えてみれば、わざわざ会場まで来てくれたのだから感謝は当然なわけで、その上でかけがえのない家族に対する愛情を伝えたのだと思います。非常にいいセリフだなと思ったシーンです。
全国大会まで
僕はこの部分、10話のあすか説得シーン以外は微妙だなという感想でした。
理由としては、
- 目標を達成してしまったという、弛緩
- あすか先輩が合わない
- 久美子の心情の変化が気に入らない
まず目標は全国大会出場だったわけで、それを達成してしまったときに新しく目標を立てて維持するのは大変だというイメージがあります。そこらへんなんとなく雰囲気でじゃあ頑張ってみるか、という描写になっていましたがそれでは勝てないと思います。
結局銅賞という結果になったわけですが、なぜ金賞に届かなかったのか、という理由の説明が欲しかったなと思いました。
代わりに描かれていたのはあすかの離脱騒動です。このときの練習では結束が乱れ、演奏のパフォーマンスは下がります。後半の殆どの話を割いてあすかの話が描かれていたわけで、さすがに長いなと感じました。
あすかは道化を演じる本心をなかなか見せないキャラクターです。性格も変わっていて、ユーフォニアムも上手で秀才だという超人です。彼女は模擬試験の優秀な成績を交渉材料に部への復帰に成功しますが、彼女にとっては数ある策のうちの一つがはまったに過ぎなかったのかと思います。
実は、もっと早く復帰しようとして失敗していたのかもしれない。あるいは、復帰できなくても仕方ないかという覚悟もあったのかもしれない。少なくとも模擬試験の成績にすべてを賭けていたはずがありません。
そういった策略の可能性を想像させてしまうあすかのパーソナリティは、響け!ユーフォニアムというアニメには合ってないんじゃないかなと思いました。
久美子のあすかへの好意はかなり高く、最終話の後半で二人きりで話しこみ、久美子はあすかの大切なノートを選別として渡されます。
……麗奈のことはどうしちゃったの?
1期であれだけ仲良くなったのに2期では結局あすか推しのまま最終話までいってしまったので、そこは残念でした。
色々語ってしまいましたが、全体としてはとてもいい作品だったと思います。見てよかったと思いました。あと宇治川が綺麗でした。巡礼したい。