レビュー『金融に未来はあるか』

金融機関に勤める友人におすすめされたので買って読んでみました。

せっかくなので学んだことを書いてみたいと思います。前提知識は必要ないと思いますが、経済学の知識が多少あるとさらに読みやすいと思います。

なお私自身は一応経済学部を卒業したレベルで、現在の職業はSEです。

ギャンブルと保険の相違

書中の序盤で批判していたのは、金融取引の一部はギャンブルでしょというものです。例えば自分が病気になった時にお金がもらえる生命保険はリスクヘッジですが、いきすぎたCDSはただのギャンブルだよという主張です。 P51に賭けと保険の違いが述べられています。

1892年、競馬ファンだった判事のヘンリー・ホーキンス卿は、英国法における賭けの意味を次のように定義した。「二人の人物が、不確実な将来のある出来事について互いに反対の結果を予想すると明言し、その出来事の結果次第で一方が他方から金を獲得するという契約」であると。保険はこれとは異なる。ポッツのもう少しぎこちない表現によると、保険の本質とは「被保険者が想定する災難が起こった場合、それによって彼が被る不利益に鑑み、保証を行う契約」である。

いうまでもなく人類はギャンブルが好きです*1。そのうえ胴元は儲けやすく、ギャンブルの参加者はしばしば人生を破壊されます。こういう理由のため、ギャンブルは厳しく制限されています。しかし、金融機関はこういうギャンブル性の高い商品を売りまくっていましたよね?と筆者は批判を展開しています。

おまけに確率論的に計算可能な「リスク」だけではなく、どんなリスクが有るかすら分かっていないという「ブラックスワン」というのもあります。数学を駆使して新商品を生み出し、それを大量に流通させて持ち合うことで、誰がどんなリスクを取っているのか誰もわからなくなっていきました。「ブラックスワン」が現れやすい状況と言えるでしょう。

感想としては、「ギャンブルは胴元が儲かるってそれ一番言われてるから!!」です。あと一般論的に、人生におけるリスクの把握と管理はサボっちゃいけないよなと。

投資銀行の抱える利益相反

投資銀行利益相反を抱えているのは書中で何度も強調されていますが、P141にその構造が述べられています。

知識豊富な顧客は胴元の的である。(中略)事情通の参加者の存在が恐れられ、事情に疎い大半の顧客の足が遠のく恐れがあるからだ。だからこそ、「賭博場」にビジネスを呼び込むことと、賭けの対象であるリスクの根本的性質について広く知らしめることの間には、利害衝突が内在するのである。

賭博場という表現が当てはまるのは上で述べたとおりです。ちなみに、そのすぐ後で、トレーダーが顧客情報を使っていると書いてありました。そういう情報交換って禁止されているんじゃなかったっけ?と思いましたが、そのへんの線引きはちょっとよくわかりませんでした。

2008年の金融危機の引き金になったものに、住宅ローンの破綻があることは有名です。証券化したりリスク別に分解して販売したりと色々策を講じ、今まで貸せなかった人に貸しまくるようになりました。当然そのうち崩壊するのですが、証券を保有している金融機関は、実際どんなリスクがあるか把握できていません。そういう事もあって被害が拡大したのだと思います。

若干スルガ銀行に近いものを感じますね。あっちはもっと原始的というかダイレクトにアウトな気がしますが。

やはりいつの時代も割を食うのは情弱の一般市民ということですね。一生近寄らないか、めっちゃ勉強した上で最初は授業料を払う覚悟で臨むしかなさそう。

「大きすぎて潰せない」の訂正と投資銀行マンの報酬

「大きすぎて潰せない」という言葉は潰してしまうと経済に悪影響を及ぼしてしまうので、(主に政府が)その企業を救済するべきという意味です。先の金融危機では多くの金融機関が政府によって救済されました。しかし、それは「大きすぎて潰せない」というよりは「複雑過ぎて潰せない」というのが筆者の考えです。

金融機関がポジションをお互いに持ちあったために、正確な状況が誰にも把握できなくなり、「この銀行倒産したら影響が他の多数の銀行に及ぶのでは?金融システムやばくならない?」という懸念が沸き起こったということです。

なお、救済を受けた金融機関は全く反省しない……。その上、投資銀行の上層部への報酬はアホみたい高いと指摘しています。

全然関係ないけどプログラムは密結合ではなく疎結合にせよという原則を思い出しました。ぐちゃぐちゃにからみあったスパゲッティコードは変更するのが難しく、いざバグが見つかったときには大変なコストが発生します。

まとめ

他にも「高速取引のアルゴリズムの開発ばっかりやっていないでちゃんと本来の業務に集中しなさい」などの主張もありますがこのへんで締めたいと思います。

お金・金融関連の良作をいくつか読みたいと思っているので誰か教えてください。

*1:一般論です。ちなみに「自分ならうまくできる」という思い込みがギャンブルへの参加を加速させます